千切りキャベツ

  • スマホ上の空論
  • 平山 紘介 コウスケさん

「スマホ上の空論」

もはや日記やブログの領域ではない「こうすけ日記」
読者に役立つヒントが見つかれば幸甚です。

エッセイストの平山こうすけ
今回は「千切りキャベツ」についてお話をします。

「人の話を聞いていない」と他人に対して思うことが多くなった。
大人になるほど物事が明確に見えてくる。学ぶことや経験が反復されるためだ。

自分の価値観と他者の価値観は異なるものであり、
お互いの共感まで求めてしまうと、相性というのか?
深くまで共感できる人に出逢うことは稀なことと気づく。

そういう意味では「話を聞いてくれない」と「気持ちが通じない」
が混合してしまう。
本来なら話とは、会話に軸があり、軸の本論について話し合うこと。
気持ちの共感はまた別に存在する。

年齢が若い時ほど、気持ちが先走り会話を失敗する。
話の本論なんて考えてもいない。

本論を考えないことが幼いのだが、幼い時期は誰にでもあるものだ。

僕が高校生になった頃、初めてのアルバイトを探していた。
FromA(フロムエー)を片手に、働いたことのない世界に踏み出すのは
ネーバーエンディングストーリーのように壮大な経験だった。

何をしていいのかもわからず、ドラマなどでしかアルバイト
を見たことがなかった僕は、ドラマにもよく登場をする中華屋さんに向かった。

「へい、いらっしゃい!」カンカン音の響く店内。
「あー面接の子か、そこのテーブルに座って」とヤンチャそうなおじさんが
僕の初の面接官だった。

人生で初の面接。僕の緊張は極限まで達していた。
「君さ、なんでウチのバイト募集に来たの?」とおじさん。
「あの、FromAに中高年歓迎と書いてあったので」と僕は応えた。

「中高生じゃないだよな〜、中高年って。中学じゃ無理でしょ」
とおじさんはブツブツ言っていた。
「君さ、麻雀やる?」とおじさんは唐突に聞いてきた。
「やりません」
「ウチさ中華でしょ、だから数がイー、スー、ウー、
の様に1、4、5を中国語で言うのわかる?餃子スーみたいに」
「餃子吸う?わからないです」と僕は応えた。
何を話しているのわからな過ぎて、初めての面接は終わった。
採用ならば連絡をするの言葉を最後にお店を離れた。

やっぱり働くことは難しい。
中華でバイトをするにも語学が必要なんて思ってもいなかった。
しかも麻雀を覚えないといけないし、バイトは大変だと僕は知った。

気持ちを切り返し、僕はイタリア料理の面接に向かった。
なぜか料理がバイトに適していると勝手な想像が僕を動かしていた。

イタリア料理屋さんは、午後の休憩時間に面接に呼ばれた。
綺麗な店内に、ぶら下がったワイングラス。
もう今度は失敗をしない。僕はそう決めていた。

コックコートを身にまとった料理長が面接官だった。
「君、どうして厨房希望なの?」と料理長。
きた!今度は間違えない。
「初心者歓迎と書いてあったので、厨房にしました」と僕。

「うちの厨房はキツイし、1日で辞める人多いよ。
ホールなら女の子も多いし、厨房はやめたら?」と料理長が言った。

「あの、僕、キャベツの千切りも出来ないのですが、厨房で働けますか?」
僕は料理長に自分から気持ちを伝えた。

「キャベツの千切り出来なくてもいいけど、厨房はキツイよ。
店長に言っておくからホールにしたら?」と料理長は続けた。
「僕、キャベツの千切り出来ないんですよね。
キャベツの千切り出来ないのに、出来ますかね?店長」と僕は譲らなかった。

「俺は料理長で店長は別。聞いてる?」料理長は怒り始めた。
「本当にキャベツの千切り出来ないから心配なんです。
それでも厨房で働けますか?」僕は聞き続けた。

「ウチはトンカツ屋じゃないから、キャベツの千切りは仕込みにないよ!
心配よりもやってから考えないと何も出来ないだろ」と料理長は僕に言った。

「ありがとうございます。僕やります!」と僕は合格をもらったと
思って返事をした。

「お前へんなやつだな。キャベツの千切りはもういいから。
なんかよく分からないけどいいか」と仕方のないように料理長は進めてくれた。
「今、主任呼ぶから、説明や今後は主任に聞いて」と料理長は席を離れた。

僕と料理長の物語はここから始まった。

話を聞かない千切りキャベツ。
料理長の鳥海チーフから僕は、仕事の基本を教わることになる。

 

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心の解説者®︎・エッセイスト 平山 コウスケ

 

 

 

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この記事の投稿者 心の解説者®︎・フリーライター・資生堂外部講師 平山 紘介 コウスケさん
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